一碗に向き合う時間がくれたもの 〜茶道がもたらす心の変化と日常の潤い〜

忙しない日々の中で、ふと、茶室の静けさを思い出すことがあります。畳の香り、釜の湯の音、薄明かりの中で差し出される一碗の茶──そのひとときが、どれほど私の心を整えてくれていたのか、稽古を重ねるほどに深く感じるようになりました。

様々な所作にこめられた「今ここ」の感覚

茶道のお稽古では、すべての動きに意味があります。帛紗のたたみ方をはじめ、柄杓の扱い方一つにも注意深さや丁寧さが求められます。
最初は覚えるのに必死で、頭でばかり動いていた私ですが、ある日ふと、動きに意識を込めながらも、同時に心が「今」に静かにとどまっていることに気づきました。

お点前は、お客様はもちろん、時には神仏のためにも心を尽くす働きです。そうした様々なお点前や所作を行ううちに、いつのまにか自分自身の内側とも向き合っている──そんな感覚が芽生えた瞬間がありました。

季節を感じる道具たちと、暮らしの中の「間」

また、茶道においては「季節」がとても大切にされます。掛軸や茶花、道具の取り合わせから、ほんの少し先の季節の気配を感じ取る。稽古場で出会う道具や飾りつけに、自然の移ろいを重ねて見つめるうちに、日常的に目に触れる様々な樹木や草花、空の色や雲の形にも敏感になりました。

日々の生活の中にも、こうした「間(ま)」を持つだけで、心が潤っていくのを感じます。お茶を点てている時間だけでなく、松風の音を聴く、和菓子を拝見し頂く、茶道具を丁寧に扱う──そんな所作の一つひとつが、慌ただしい日々の中に優しいリズムをもたらしてくれているかのようです。

茶道がくれた、自分を取り戻すひととき

茶道を習い始めてから、少しずつ、心が静かになってきたように思います。うまくいかない日も、気持ちが揺れる日も、一服のお茶を点てて頂くことで、自分自身に「お疲れさま」と言えるようになりました。

茶道とは、誰かのために心を尽くす道でありながら、その行為を通して自分自身の心も整っていく、そんな不思議な力や魅力をもった世界です。

忙しい毎日の中で、ほんの少しでも「間」を取り、荒んだ心を癒しつつ自分自身を取り戻したい──そう願うすべての人に、茶の湯はそっと寄り添ってくれることを、私自身が実感しています。

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